アメリカ文学における終末論的想像力 アメリカ例外主義の展開とその方向性 電子書籍版
3850円(税込)
作品内容
米文学史は植民地時代を含め、アメリカ例外主義と絡み合い、それに立ち向かってきた。アメリカ例外主義とは、米国は神に選ばれた自由と民主主義を標榜する大洋に挟まれた例外的な近代国家であり、世界の民主化を主導する義務がある、という考え方である。それはプロテスタントの教義によって強化され、国家の根幹をなし、黙示録的な終末を演じることで米国を帝国化してきた。マサチューセッツ植民地の形成から独立戦争、メキシコ戦争、そして南北戦争と世界の終末を思わせるレトリックで政治家や説教師、ジャーナリストらが差し迫った危機を語り、国民の団結を呼びかけてきた。20世紀以降も二つの大戦に、大恐慌、ベトナム戦争、そして9・11の攻撃、イラク戦争など大きな危機に遭遇する度に、民主主義の伝播、善悪の戦い、対テロの戦いなど、多くの言説が用いられ国民を方向づけていた。現代においてこの終末論的想像力は、第三次世界大戦という用語により世界に拡散され、プロバガンダとして大いに利用され、世界的パンデミックの不安と恐怖までもが後押しする形で、国民は将来の見通しを立てることができないような強迫的な寄る辺なさに苛まれることになってしまっている。トランプ政権において露わになることとなったアメリカ例外主義への反発からは、自国優先の政策に舵を切ることを望む人々も多く出てきている。そして、トランプの支持基盤であった極右集団QAnonは、トランプを世界の終末を阻止するためにやって来た救世主として扱っているのである。今を生きる我々が、この事態、現実を、乗り越える手立てを見出すことは容易ではない。本書は、米国が体験してきた不安や恐怖、それらを克服する過程を、作家たちがいかに描いてきたかを読み解き、そうした危機的状況やそれに乗じた終末論的プロパガンダ、それと絡み合うアメリカ例外主義の展開と分裂を視野に入れ、文学作品が、いかなる意義を生成してきたのかを読み取ろうと試みるものである。目次寄稿「アメリカ大統領と終末論的想像力」(巽孝之・慶應義塾NY 学院長)「〈風景〉とマニフェスト・デスティニー」(成田雅彦・専修大学教授)「わたしたちはどう生きるか―エマソンの『自己信頼』におけるヴァルネラビリティの倫理」(生田和也・長崎県立大学准教授)「独身女性が書く家事手引書―キャサリン・ビーチャーのベストセラー改訂版」(秋好礼子・福岡大学准教授)「反時代的考察者としてのヘンリー・アダムズ」(砂川典子・北海道教育大学准教授)「絶滅という思想―十九世紀アメリカにおける環境終末論」(高橋勤・九州大学名誉教授)「『大理石の牧神』における絵画と身体」(川下剛・京都産業大学講師)「『ハックルベリー・フィンの冒険』とその批評的冒険にみる(非)ヘーゲル的精神の冒険」(吉津京平・北九州市立大学非常勤講師)「『船乗りビリー・バッド』における黙示録的運命」(竹内勝徳・鹿児島大学教授)「ポストアポカリプス的想像力とデモクラシーの「未来」」(渡邉克昭・名古屋外国語大学教授)「彼らの夢は実現したのか--トウェインとフィッツジェラルドに見る夢の迷走」(江頭理江・福岡教育大学教授)「『怒りの葡萄』の終末描写に見るスタインベックのアメリカ像」(前田譲治・北九州市立大学教授)「「丘の上の町」は安住の地か」(綱智子・佐賀大学・久留米大学 非常勤講師)「「終わり」のない旅―スティーヴン・キングのダーク・タワーの先に」(宮内妃奈・福岡女学院大学教授)
作品情報
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