自閉症のぼくが「ありがとう」を言えるまで 電子書籍版
1222円(税込)
作品内容
*本文「幸せになる秘訣」より抜粋*自己憐憫におちいって身動きがとれなくなったことが、どれほどあっただろう。陽気でいるよりも、みじめでいるほうがずっとかんたんだ。ポジティブでいるよりも落ちこんでいるほうがずっと楽だ。人生が厳しいときにポジティブでいるためには努力が必要だけれど、落ちこむためにはまったくなにもしなくていいのだから。ひとりが落ちこむと、まるで伝染病みたいに、まわりのみんなも落ちこんでしまう。だから自分の身を嘆きがちなぼくたちは、せめてまわりの人にやさしくしなければ。どうすれば自己憐憫を乗りこえられるだろう?より楽な生活をすればいいというわけじゃない。ぼくのおばあちゃんはものすごくたいへんな生活をしているけれど、とても陽気な人だ。ことの大部分は「期待」と関係しているのだと思う。人生になにか「貸し」があると思っていたら、いま手にしているもののありがたさはわからない。ぼくはずっと、自分をふつうの子たちと比べていた。自分を嫉妬に閉じこめ、自分だけが人生を楽しむチャンスを逃していると思っていた。ふつうの子だって完璧な人生を送っているわけじゃないということがわかっていなかった。彼らはふつうの頭脳を持っていたかもしれないけれど、たぶんぼくには、家族やファイトなど、彼らが持っていないものがあった。自分の幸運に気づけば、自分の財産のありがたみがわかる。ぼくは、コミュニケーションができることの幸運をかみしめている。これをできて当然のことだとは思わない。「この病気であることがすべて悪いわけじゃない」このことを心に刻んで、自己憐憫と戦うのがぼくの仕事だ。認めたくはないけれど、自閉症はぼくにいいことももたらしてくれた。沈黙の世界で、ものごとを深く考えることを学んだ。まわりの人たちとその感情を観察して理解することを学んだし、この病気がすべての終わりじゃないこともわかった。取り組むことができるとわかっている難題にすぎないのだ。幸せになる秘訣は、自己憐憫をやめることだ。
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